第1話 偶然立ち寄った街で・・・
鬼が目の前にいる。
お母さんも目の前にいる。
お父さんは、向こうで倒れている。
怖い。
逃げなきゃ・・・逃げなきゃ。
鬼が腕を振り下ろす。
お母さんも、お父さんのようになった。
怖い。
逃げなきゃ・・・逃げなきゃ。
鬼が私に向かって歩いてくる。
怖い。
逃げなきゃ・・・逃げなきゃ。
鬼が腕を振り上げる。
とても怖い。
逃げなきゃ・・・でも逃げれない。
村から煙があがっているのが分かった。
とてつもない量だ。
「おい、あれはやばいだろ?」
黒いバイクを走らせていた男は、バイクを止め、ゴーグルを上に押し上げる。
「見に行くか・・・」
軽く言うと、彼はまたバイクを走らせた。
男のバイクが到着した頃には、村は火の海に変わっていた。
倒れた村人がたくさんいた。
倒れた村人は、殴られた跡や引き千切られた跡などいろいろあった。
明らかに火事が死因ではない。
「・・・・・」
男は、火の海の中をバイクで走り回った。
「うわー!!!!」
すぐ目の前の建物の中から悲鳴が聞こえてきた。
男はバイクの勢いそのままに、建物の中へバイクごと突っ込んでいった。
少女は、もうダメだと諦めた。
鬼の腕は、今まさに振り下ろされようとしていた。
「このヤロー!」
突然、家の玄関の方から気合の入った声が響いてきた。
そして、一気にこの部屋まで来る足音がした。
ドカンッ!
扉が乱暴に開けられた。
そこに立っていたのは・・・・・・幼馴染で向かいに住んでいたタケシだった。
「ミヤに手を出すなー!」
タケシは叫んだのと同時に、鬼に向かってダッシュをかけた。
その間、鬼はボーっとしていた。
入ってきた少年に、ずっと目を奪われているようだ。
タケシは、これ幸いとばかりにミヤの手を引き、玄関へと走り出した。
鬼はやっぱりボーっとしていた。
が、少年が目の前から消えると、鬼はハッとしたように慌てて周りを見回し、少年を追いかけ始めた。
少年少女と鬼。
どちらが早いかは一目瞭然でしょう。
鬼というのは、身の丈2〜3メートルもある巨体で、体重はそれ相応に結構あります。
足が長いので、鬼の一歩はかなりの距離になるのです。
もうあとちょっとで玄関というところで、鬼に追いつかれてしまいました。
「くそっ・・・おいミヤ、お前は早く逃げろ。」
「えっ?」
「俺が鬼を引き付けといてやる。ミヤはできるだけ遠くに逃げるんだ。」
「・・・イヤだよ。」
「なんでだよ。早く行けよ。」
鬼が一歩一歩ゆっくり近づいてくる。
この状況を楽しんでいるようだ。
「・・・私、1人になりたくない。」
「意味が分からん。我が侭言ってないで早く逃げろ。」
鬼が2人の横に立つ。
タケシが気づいたときには、鬼はもう腕を振り上げて、振り下ろす瞬間だった。
「危ない!!」
ミヤがタケシを突き飛ばした。
突き飛ばされたタケシは、よろめきながら見てしまった。
鬼の手により叩き飛ばされるミヤを・・・
壁を突き破って、吹っ飛んでいくミヤの姿を・・・
そして、叩かれる前のミヤの笑顔を・・・
「うわー!!!!」
タケシは頭の中が真っ白になり、力の限り叫んでいた。
ガシャーン!
突然バイクが窓から飛び込んできた。
タケシは、その音にびっくりし、そして今までのショックが同時にきて気を失った。
タケシが最後に見たのは、白く輝く銃を鬼に向けている男の姿だった。