ご 挨 拶
「もう、ボタンが段違いになってるわよ。」
ハンドルを握っていた手を、シャツのボタンに手をかける。
「あれ?ほんとだ。」
されるがまま、その手を受け入れる。
「本当に、私がいないと駄目なんだから・・・」
「いや、そんなこと・・・」
「あります!」
「・・・・・そうですか」
もう、目的地についたのだがボタンを直すので手一杯なのだろう。
レバーはDに入りっぱなしだ。
「まったく、ゆうたろうはこれだから・・・」
ボタンを直している女性は、ゆうたろうと言う男性の文句をこれでもか!というぐらい言い放つ。
しかし、ゆうたろうはまったく文句を気にしてなかった。
というか、ほかの事に気をとられてた。
「服の隙間から見える胸の谷間」や「スカートからのびるスラリとした足」に気をとられていたわけではない。
女性の足が、ちょくちょくブレーキから離れているのに気がついていたのだ。
そして、女性の足がブレーキから離れるたびに車は前へ進んでいく。
ぞくに言う「クリープ現象」だ。
「お、おい。文句は後でたーっぷり聞くから、とりあえず、パーキングにいれてくれ。」
「・・・・・あぁ、そういえばそうね。」
女性は車がいつの間にか移動していることに気がついた。
そして、レバーをPに入れる。
「まったく、俺がいないとお前は駄目だな。」
「そ、そんなこと・・・」
「無いのか?」
「・・・・・・あります。」
女性は顔を俯かせ、小さくぼそぼそと呟く。
きっと、ゆうたろうは、そのような仕草にもうメロメロになっていることだろう。
「さてと、お前の両親に挨拶に行くか。」
ゆうたろうは、颯爽と車の扉を開ける。
段違いのボタンを中途半端に残して・・・