りん王国…そして歴史が始まる…
その両手は、夢を掴むためにある!

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ホワイトデーは3倍で


ある一人の男が寝ていた。


と、突然―――


「よっしゃ!横浜優勝や〜!!」


と、叫んだ。


放課後で、騒がしかった教室が一瞬で静かになる。


「ねぇ、あんた大丈夫?」


一人の女が俺に話しかけてきた。


「ん?おぉ、大丈夫だ。ちょっと夢を見ててな。」


「夢ねぇ〜。」


ちょっと冷めた目で俺を見てくる。


「夢っていいな。なんたって俺の願望をかなえてくれる。」


「横浜優勝が願望なわけ?」


「なぜそのことを!?」


(あんたが叫んだんだよ!!!)


教室にいた全員が心の中でツッコんでいた。


「あんたが叫んでいたけど?」


教室のみんなを代表して彼女が言った。


「まぢ?」


「まぢ」


どうやら、本当みたいだ。


以後気をつけねば・・・


「そんなことよりさ、ちょっと質問いい?」


「俺に答えられる範囲ならばいいぞ。」


俺は了承した。


これが、クラス崩壊の始まりの鐘だった。


「今日は何月何日?」


彼女の質問が始まった。


「2月14日だろ?」


「何の日か分かる?」


「誰かの誕生日か?」


質問を質問で返してしまった。


しかし、彼女は別に気にしてないようだ。


「ちがうでしょ、今日はバレンタインデーでしょうか!」


「は?ロッテの監督の日?何言ってんの?」


俺のボケを彼女は冷えた目で見つめてくる。


「・・・・・あんた、まだ寝てるの?」


本気で心配されてしまった。


ちょっと、やりすぎたか・・・


「冗談だよ。男なら誰でも一度は言っている『チョコレート会社の陰謀』だろ?」


「そういうこと言ってると、女子からチョコもらえなくなるぞ?」


えらそうに説教してきやがった。


「別にいいよ。好きでもない女から貰ったって嬉しくないよ。」


そういいながら、オレは自分のかばんを見つめる。


そこには、チョコでパンパンになったかばんがあった。


オレの何がいいのだろうか?


彼女もオレのパンパンのかばんを見る。


「・・・まぁ、貰えないよりマシよ。世の中には、貰いたくても貰えない男共がいっぱい居るんだから・・・」


「そいつらは、どこぞの難民ですか?」


オレのボケを、彼女はスルーした。


「それに、モテるっていうのはいいことよ?」


彼女はそんなことを言いながら、オレのかばんから適当にチョコを取り出し食べ始めた。


「お前って勇者?」


彼女の勇気ある行動にオレは賞賛の眼差しを送る。


「ただのドロボウよ。」


堂々と宣言しやがった。


しかし、言われてみるとそんな感じだ。


「そういえば、あんた彼女いたっけ?」


「うんにゃ、いねぇべ。」


否定したら、彼女は驚いた顔でこっちを見てきた。


ふっ、オレの微妙な方言に驚いたか。


「えっ、うそ、マジ?あんた男色?」


「何故そうなる。」


呆れてものも言えない。


「へ〜、彼女いなかったんだ。わたし〜、立候補しようかなぁ。」


こちらの顔を覗き込みながら、オレを挑発する発言をする。


「オレは高いぜ?」


そんな安い挑発にオレは乗らないぜ!


「んじゃ、これで。」


彼女はポケットから、丁寧にラッピングされた箱をオレに差し出した。


「なんだ、これは?」


差し出された箱を受け取った。


「私の手作りチョコに決まってんじゃない。」


決まってたようだ。


「そうか。でも、これだけじゃ足りないぜ?」


オレは、お返しとばかりに挑発する目で彼女を見つめる。


「結構気持ちが入ってて、高いはずなんだけど・・・」


「気持ちって・・・欲望?」


「愛って言ってほしいな。」


「愛という名の欲望。」


「結局欲望なのね。」


ガックリと肩を落とす彼女。


なぜか勝利したときの高揚感を俺の中で感じた。


「わかった。」


彼女は何か決意したようだ。


「じゃあ、足りない分はこれで埋めといて。」


彼女はそういうと、体を近づけて俺にキスをしてきた。


「んっ!?」


オレは驚きの声があげたかったが、口を塞がれていたのであげられなかった。


ちょこっとチョコの味がした。


キスされてから時間の感覚がなくなったような錯覚に陥った。


もう何秒しているのか分からない。


オレは頭が真っ白になり、何をしていいのか分からず、とりあえず動かないことにした。


そこから何分たっただろう。


彼女はゆっくりオレの口から離れていった。


「私、もうお婿にいけない。」


「大丈夫だ、お前はもとからお婿にいけない。それに、そのセリフはオレのだ。」


普通はお嫁だろうが!と心の中で付け足しておく。


「わ・・・わたし、はじめてだったんだから・・・。責任取ってよね!!!」


彼女は、そう叫ぶと教室から走り去ってしまった。


「せ、責任って・・・」


そっちからやってきたんだろうがー!


とは、叫べなかった。


なぜなら教室では、なぜか分からないが学友たちが血の涙を流しながら、狂喜乱舞していたからだ。


「今日、チョコレート会社が立てた陰謀の日に新たなカップルが誕生した!」


どうやら、オレが原因らしい。


「こういうめでたい日は、幸せな奴に呪いをかけたくなるなぁ。」


「八つ当たりかよ。」


オレの小さいツッコミは学友たちの誰の耳にも入らなかった。


「帰ろう・・・」


そう呟き教室を出た。


教室からは、壊れた学友たちが暴れ始めていた。


このクラス、明日使い物になるのか?


オレは、翌日の心配をしながら、ゆっくり歩き出した。



どうやら、俺の心はドロボウさんに盗まれてしまったようだ。


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