魚用虫取り網
夏。
人が最も開放的になれる季節。
『なぜか多い6月のベイビー』という歌詞がみょうに納得がいく季節。
そんな季節はみんなが海とか海とか海とかに出かけるわけで・・・。
うちも負けてられないと出かけたはいいが、海パン忘れて海を断念。
しかし、どうしても遊びたい我が家族は海の近くに神社を発見し、そこで遊ぼうということになった。
「兄ちゃん聞いてる?」
いきなり弟の顔がアップで俺の目に映る。
「うおっ、ちかっ!」ガシャン!ドスンッ!!
椅子に座って考え事をしてたのに、ビックリしてこけてしまった。
「兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だ。」
小学生の弟にこかされたことが恥ずかしく、慌てて立ち上がる。
遠くでビニールシートを敷いている両親が、俺のこけてる姿を見てゲラゲラ笑ってる。
いつか仕返ししちゃる!
「兄ちゃん何か考え事してたの?」
鋭い弟の質問。
「ああ、なんで何も無いこの場所に来たんだろうか?と思ってね。」
椅子を直し、また椅子に座る。
「なんだ、そんなことか。僕はてっきり、日本の将来とか増税問題を考えているのかと思った。」
あんた本当に小学生?
「それも結構な悩みだと思うが、今は俺の悩みのほうが切実なんだわさ。」
「遊ぶことが無いから、そんなことを考えてたんでしょ?だったらセミ取り教えてよ。」
魚釣りで使う網を両手で持ち、弟がやる気満々の顔で行ってくる。
「セミの取り方を聞こうと思ったら、兄ちゃんこけちゃうんだもん。ビックリだよ。」
「いや、あれは俺もビックリだったぞ。」
高校生になり、ようやく大人になったと思った矢先にこれだ。
兄貴の威厳なんぞあったもんじゃねぇ。
俺もまだまだ子供だったってことか・・・。
「よしっ!セミ取りを教えてやろう。」
「いやっほ〜!」
網を両手で掲げ喜ぶ弟。
「いいか、セミはものすごい警戒心がある。セミを見つけても飛びかかるな。セミに一歩一歩ゆっくり近づけ。そうすると、セミは鳴くのをやめる。やめたときはその場を動くな。セミが警戒している証拠だ。また鳴き出したら動いてよし!下からそ〜っと網を持っていって、一気にゲットだ。わかったか?」
「わかったー!」
本当に理解したのかわからないが、元気に返事をしてセミの鳴き声が聞こえる木まで走っていった。
「いきなりは無理だろうな。」
無意識に独り言をしゃべってしまった。
俺だって何回も失敗したものだ。
ションベンをかけられたことだって一度や二度ではない。
「兄ちゃん!捕まえた!!」
「はやっ!」
弟が網の口を手で閉じて飛んできた。
「どうやってセミを持つの?」
「うむ、教えてやろう。」
網に手を突っ込み、セミをおもむろに掴む。
「ほら、こうやってもつんだ。」
弟が見やすいように顔の前まで持って行ってやる。
「僕も持つ!」
「ん。」
弟に手渡してやる。
「おおー!」
よく分からんが感動しているみたいだ。
「よし、じゃあ母さんに見せて来い。もって行ったら、青い顔で『よかったわね』と言ってくるから、さらにTシャツにセミを置いてきてやれ。母さん喜ぶぞ。」
「うん!」
元気よく走っていく弟。
許せ弟よ。
復習には、仕方ないことなんだ。
俺のことをゲラゲラ笑った罰なんだ。
弟が母さんに話しかけ、母さんが真っ青な顔になり、次の瞬間はギャー!とか言っているのが見える。
母さんが弟と話し、セミを取ってもらい、俺を睨みつけ、その雰囲気にビクついたセミが飛び立ち、逃げようとしたセミをダイビングキャッチする弟。
弟のダイビングキャッチに感動する俺。
いつのまに、あんなに成長したのだろうか?
「あ〜ぁ、なんかすることないかなぁ。」
母さんの視線を無視し続ける俺。
夏はまだ始まったばかり・・・。