「君だけの騎士」
星が地面を照らすぐらい輝いていた、そんな冬の夜のことだった。
その日は塾があり、友達の奈津美ちゃんと一緒に家に帰っていた。
そんないつも通りの帰りに、なんでもないように奈津美ちゃんは言った。
「私、イジメられてるの。」
奈津美ちゃんは笑顔で僕にそう言ってきた。
「うそでしょ?」
僕は、それを信じなかった。
笑顔でそんな事言われてもねぇ。
「でも、本当なの。」
奈津美ちゃんは、しつこくそう言い続けた。
そう言い続けられたら、信じてみたくなった。
「どんなことされたの?」
どの程度のイジメなのか確かめることにした。
「みんなが無視するのは当たり前。靴に画鋲を入れられたことがある。あと、わざと足をかけられてこけたこととか・・・」
奈津美ちゃんは、笑顔のまま涙を流しだした。
どうやら、イヤな事を思い出して涙が出てきたようだ。
僕は、それを見て大いに慌てた。
「わ、わかった。よ〜くわかりました。だから、泣かないでよ。」
女の子に泣かれると、大いに困ってしまうのは僕だけではないはずだ。
男っていう生き物は女の涙には弱いのである。
「なっちゃん(奈津美ちゃんのこと)が可愛いから、気を引こうとしている軽いイジメだと思ったけど、これはかなり重いイジメだね。先生には言った?」
「言ってない。みんなが言うなって・・・。それに、私あの先生嫌い。」
まあそうだろうな。
なっちゃんの担任は、面倒ごとを嫌う最低な先生だしな。
俺だって、あの先生は嫌いだ。
なっちゃんの親には言ったんだろうか?
いや、なっちゃんの事だから言ってないに違いない。
しょうがないな・・・
「なっちゃん。」
僕はある決心をした。
「なに?」
目を赤くしたなっちゃんがこっちを振り向く。
「僕が君を守ってあげるよ。もう君を泣かせはしない。たとえ、なにがあろうと・・・」
「えっ!?」
僕は、このときから一人の女の子を守る小さな騎士になった。